進化するブロックチェーン (Blockchain)
Updated: Jun 18, 2020

信頼のシステム
近年目覚ましい成長を遂げるブロックチェーン技術は、多様な産業に対して実用性の高い解決策を見出してきました。世界中が世界的な大流行に見舞われる今日でも、分散型台帳技術(DLT)の革新を止めるものはありません。
「ブロックチェーンへの適応は、ひとつのターニングポイントを迎えました。ブロックチェーンの説明から、実務的なビジネスアプリケーションの構築へと転換したのです。金融サービスやフィンテックがブロックチェーン開発を率いている中、他の産業ではブロックチェーンを用いた解決策により、時間対費用に見合う投資利益率(ROI)(リターン・オン・インベストメント )をもたらす事例発掘への関心度が高くなっています。-Deloitte’s 2019 global blockchain survey.
技術発展のための投資促進に先立ち、新技術がビジネスへ利益を還元する実用性を図るために、まずはビジネス戦略としてのブロックチェーン利用、ひいては、なぜブロックチェーンの統合が多くのビジネスにとって不可欠であるのかを、見ていきましょう。
集権化から非中央集権化へのシフト
新しい信頼のガバナンス(統治機構)
今日まで、中小企業(SME)を含むビジネスや取引は、危険にさらされていました。そのため、当事者は仲介業者や第三者を主要取引先として取引を行い、契約上の義務履行を容易にしていました。下記に例を挙げていきます。
1. (a) 現状の取引プロセス-輸出入

輸出入の観点からは、金融機関が買い手と売り手の間に入ることで、余分に仲介手数料がかかります。理由は、買い手側は約束通りに製品を提供するのか信頼できず、売り手側は買い手が支払い条件に応じるのか疑わしいと感じるからです。
つまり、買い手と売り手の双方が、取引先として信頼を置いている銀行に対して、相手方との取引を任せています。
輸出入のプロセスにおいては、銀行側にリスクをもたらす不法な書類が見つかる場合もあります。
1. (b) ブロックチェーンにおけるスマートコントラクト-輸出入ビジネス

ブロックチェーンのスマートコントラクトを使えば、契約条件と支払義務の要件は売り手と買い手の間で使われるブロックチェーン上に設定され、仲介業者は存在しません。また、契約内容はブロックチェーンネットワークに参加する全員に対して公開されます。
この方法により、双方は仲介業者の介入や仲介手数料を必要とせず、コストを削減することができます。また、直接知らない相手方とも安全な商取引を行うことができます。
2. (a) 現状の請求システム-保険・旅行

手作業によるプロセスのため、補償条件はあいまいで、前例のない事象発生に対応しきれていません。顧客は全ての規約を理解できておらず、航空機の遅延が発生した場合の補償については電話で問い合わせるまではっきりせず、また補償や返済も自動化されていません。
2. (b) ブロックチェーンにおけるスマートコントラクト-保険・旅行

保険の契約はリアルタイムで管理され、保険会社や航空会社の間で事前に決められたスマートコントラクト上の規約に従い、即時、自動的に補償されます。顧客は自分で報告をしたり、手作業で補償を請求する必要がありません。
企業側からすると、補償や返済のプロセスは一本化され、虚偽の補償請求への対応を格段に減らすことができます。
3. (a) 現状のプロセス-銀行での口座開設手続

現状では、新しい口座開設の場合にも、融資を受ける場合にも、全ての顧客は同じ情報を入力し、同じプロセスを経る必要があります。
それぞれの銀行は顧客確認や承認作業のための独自プロセスに従いますが、各銀行でプロセスは類似しており、かつ各銀行は同一の顧客に対応しています。
同一顧客であることを確認するために、多数の重複作業が発生しています。理由は、各銀行は顧客の基本情報を共有していないからです。
従来の状況により、全ての銀行は人件費、ツール、詐欺を感知するためのパターン認識システム等に、多額の投資を費やしてきました。
3. (b) プライベートブロックチェーンの利用-新規銀行口座開設

プライベートブロックチェーンの有効活用により、ブロックチェーン・プラットフォーム上に存在する特定の顧客情報を共有し、重複作業を飛躍的に減らすことができます。また、異なる銀行同士が共同で顧客の信用情報を秩序立て、詐欺被害を含む数あるリスク(信用リスク、流動性 (リクィディティ)リスク、管理リスク等)を和らげることができます。
つまり、ブロックチェーンの活用と、銀行のブロックチェーン・ネットワークへの参加により、顧客は異なる銀行に行く度に、同じ目的のために同じプロセスを経る必要がなくなります。下図は、顧客Aが新規銀行口座を開設する場合の異なる体験を示しています。

テクノロジーにおけるダイナミクスは、産業間の統合に適用することもできます。
ブロックチェーンは、各産業の運営を大きく変える可能性を秘めていますが、今もまだブロックチェーンは成長過程にあり、実際にこのテクノロジーが規模を拡大させ定着するまでには多くの課題と向き合わなければいけません。

変化を起こすこと。変化を待たないこと。
ブロックチェーンが主要な技術になったとしても、ユーザーはどのプラットフォームが正しいのか、どのスマートコントラクトの言語が正しいのか、適切なシステムインターフェースはどれか、正しいコンセンサス・アルゴリズムはどれか、心配しすぎる必要はありません。
また、プロジェクト遂行時に、各パートナー同士と異なるブロックチェーン・プラットフォームを使うことに対して懸念する必要もありません。-Gartner report 2019
ブロックチェーンのバックエンドは、ユーザーや顧客側の考慮事項となるべきではありません。テクノロジーの変化は開発者に任せ、一方でビジネスオーナーや企業側は、ビジネスの変容に対して準備を進めておかねばなりません。

ジョナサンーモルガン
リスクマネジメント領域にて豊富な経験を持つ、AI / マシンラーニング(機械学習)/ ブロックチェーンの研究主任。過去16年にわたるオペレーション業務効率化の実績と、テクノロジーを活用したプロセス改善、規制やリスク・コンプライアンス環境におけるフレームワークの再定義、ソリューション・プロバイダーと連携した新たなベンチャー創設を通じて、既存の銀行システムのデジタル化推進の架け橋となる。

田中美帆
複数年にわたる公的機関、起業家、海外スタートアップとの協業経験を活かし、一連の法人設立からビザ手続までを手掛ける実務家/スタートアップに寄り添うアドバイザー。